CLICK

何十年やっても難しい、 ”ものづくり”の舵取り

2021.05.18

目次

代表の池内です。

ぼくは、1983年にIKEUCHI ORGANIC(当時は池内タオル)の社長に就任したので、かれこれ40年近く、ものづくりに携わってきました。今では、タオルはもちろん、寝具やベビー用品など、様々なファブリックアイテムをつくっています。

ただ、何十年やっても難しいと感じるのが、ものづくりの”舵取り”です。

ぼくらの会社を象徴する商品となるべく精魂込めてつくったものが、市場から全く見向きもされない状態が続くこともあれば、思いつきや腕試しでつくったものが思わぬ好評を得て、ぼくらの存在を多くの人に知ってもらうキッカケになることもあります。

ものづくりの会社の代表をしていて困るのは、実は後者の思わぬ好評が生まれた時です。

短期的に見れば、お客様が喜んでくれたり、会社の認知を高めたりと、想定外の好評は喜ばしいことではありますが、長期的に見ると、ブランドのポリシーを崩しかねないリスクもはらんでいます。

例えば、風のように軽いオーガニックエアー

オーガニックエアーは、池内タオルからIKEUCHI ORGANICへの社名変更の記念としてつくったタオルです。

ぼくは出張が多く、いつも出張先のホテルのタオルが気になってしまって、すごくストレスを感じていました。そこで、出張時にも気軽に持っていける、軽さをとことん追求したタオルを、記念タオルとして作るのがちょうどいいと考えました。

同時に、池内タオル時代に培ってきた技術の腕試しの意味もありました。オーガニックエアーは軽さを追求するため、ものすごく細い糸を使用しています。この細い糸を使って、イケウチらしいタオルを織ることはできるのか? 自分たちの腕を試す意味でも、挑戦しがいがあると思いました。実際、織りの職人は苦労して完成させ、そして今も努力を重ねています。

そうして、オーガニックエアーを発表したところ、思いもよらぬ大反響を呼びました。

軽くて肌触りが柔らかいタオルを求めているお客様からは大変好評をいただきました。赤ちゃん用のタオルとして購入いただいたり、「IKEUCHI ORGANICで初めて買ったタオルはオーガニックエアー」というお客様も多くいます。

ただ、ぼくからすると、「ウチのタオルを使い始めるんだったら、オーガニックエアーからスタートはちょっと違うな…」という悶々とした気持ちを、実は抱えていました。ぼくらのタオルを1枚しか買えないなら、「これぞ、IKEUCHI ORGANICのタオル」とぼくらが大切に育ててきた『ORGANIC 120』を買ってほしいとさえ思っていました。

やっぱり、ぼくらが目指すものづくりは、質実剛健。長く使えて、愛着が湧いてくる商品を届けることです。

オーガニックエアーが好きと言ってくれるのは大変嬉しいのですが、オーガニックエアーは繊細な糸を使用しているため、ぼくらの定番タオルと比べると、丈夫さが少し繊細です。携帯用タオルなどで使っていただくには全く問題ないのですが、日常づかいで長年使用するという点では、オススメがちょっとしにくいのが本音です。

その悶々とした気持ちを払拭すべく、開発したのがオーガニックエアープレミアムです。

オーガニックエアーの特徴である、軽さと柔らかい手触りを保ちながら、厚みを増やし丈夫なタオルにしています。厚みを増やしたと言っても、普通のタオルと比べると、その軽さは一目瞭然です。また、柔らかい手触りを追求するため、糸の組み合わせを調整して、パウダースノーのようなふわふわ感のある風合いを実現しています。

イケウチらしい質実剛健さと、オーガニックエアーの特徴が重なったタオルとして、ぼくらのタオルを使い始める時の最初の一枚として、自信をもって紹介できるものとなりました。

ありがたいことに、オーガニックエアープレミアムは多くのお客様から好評いただき、先日は、オーガニックエアープレミアムのタオルケットの販売もはじめました。

だけど、今度は別の問題が浮上します。

エアーシリーズを愛用してくださるお客様と、『ORGANIC 120』をはじめとしたオーガニックシリーズを愛用してくださるお客様が分断されていて、両シリーズを使ってくださるお客様が実は多くないことです。

このままでは、IKEUCHI ORGANICが二面性のあるブランドになってしまうと思いました。

好みに合わせて、好きなタイプのタオルを使ってもらえれば、それで充分じゃないかと思うかもしれません。ただ、ぼくとしては両方使ってほしいのです。シーンによって、タオルに求めるものは変わってきます。タオルを使い分けていただくことで、より豊かな暮らしを実現できると思いますし、いろんなタイプのタオルを味わう楽しさを純粋に知ってもらいたいと考えているからです。

また、意地のようなところもあります、オーガニックシリーズは、IKEUCHI ORGANICのものづくりの真髄とも呼べるシリーズです。ぼくらのことを評価してくださるエアーシリーズのお客様には、オーガニックシリーズも味わっていただきたいのです。

オーガニックシリーズあっての、IKEUCHI ORGANIC。このポリシーだけは、ぼくの中では絶対にブレません。

では、どうやったら、オーガニックシリーズとエアーシリーズの橋渡しができるのか?

その試みのひとつとして、新しい商品を開発しました。

それが、今月から発売開始となったオーガニックエアーホイップです。

ホイップは、混ぜ合わせることで、新しい価値を作るような意味を帯びている単語です。例えば、ホイップクリームは、生クリームと植物オイルなどを混ぜわせて、独特の味わいを生み出しています。

このオーガニックエアーホイップで混ぜ合わせているのは、糸です。エアーシリーズで使用される解撚糸(極めて甘撚り糸)と、オーガニックシリーズで最も丈夫で堅牢な『ORGANIC 732』で使用されている糸を混ぜあわせています。ORGANIC 732を愛用されている人だと、「732の力強さがあるのに、肌触りがソフトだね」と驚かれると思います。一方、エアーシリーズの愛用者の方も、「エアーらしい肌触りの柔らかさなのに、ずっしり感がある」と思われると思います。

名前に「エアー」を入れているのは、エアーシリーズの愛用者の方々に、特に振り向いてもらいたいからです。もう完全に意地ですね(笑)。

オーガニックエアーの思わぬ大反響から、プレミアムと、ホイップが加わって、ようやくIKEUCHI ORGANICの商品ラインナップとして、納得感のある状態へと近づいてきました。

このように、実験的につくったものが思わぬ好評を得るのは嬉しい反面、納得感を持って定番商品に加えるには、様々なことを考えていく必要があります。ものづくりのポリシーと矛盾がないように、コンセプトも技術も磨いていかないといけません。

とはいえ、実験的なものづくりは、自分たちの技術を磨くためにも、自分たちの気づかなった可能性と出会うためにも大切なことです。

実験的なものづくりをしながら、ブランドの軸がブレないように、どうやって舵取りをしていくか?

これが、ものすごく難しいです。

ぼくの頭の中には、IKEUCHI ORGANICのブランドの航海図をかなり緻密に描いていて、最終的に辿り着きたいものづくりのイメージがあります。そこに辿り着くには、こんな技術が必要だし、市場をある程度育てておかなければならないという、ステップのイメージも持っています。

でも、一方で、予定通りには航海できないだろうとも思っています。それが、ものづくりの大変なところでもあり、面白いところでもあります。

IKEUCHI ORGANICのものづくりが、どんな風に歩んでいくのか。これからも見届けてもらえたら嬉しく思います。

池内 計司

記事を書いた人

池内 計司

IKEUCHI ORGANIC 代表。一橋大学商学部を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社。1983年、家業である池内タオルに入社し、2代目として代表取締役社長に就任。現在は代表として企画開発部門に従事。