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廃れつつある技術を、どう未来に継承するか

2022.07.15

目次

代表の池内です。

来年、IKEUCHI ORGANICは、池内タオル時代から数えて、創業70周年を迎えます。

ぼくは父である先代から会社を引き継いだ2代目ですが、会社の長い歴史を振り返ると、様々な商品が存在します。そのなかで、随分と前に製造停止したものだけど、なんとか後世に残していけないかと考えている商品が幾つかあります。

ぼく自身、今年で73歳となり、後何年ものづくりに関われるかわかりません。イケウチの歴史を語るうえで欠かせない商品をアーカイブしたいという気持ちが、ここ数年で強くなっています。

そのなかには、現在では廃れつつある技術が含まれているものもあります。培ってきた技術を未来に継承する意義からも、こうした取り組みへの使命感を感じています。

実は、今月新発売となった『オーガニック140ライト』も、廃れつつある技術に光を当てた商品です。

この『オーガニック140ライト』では、「シャーリング加工」という技術を使っています。

多くの方はタオル生地というと、糸がループ状に連なって、フワッとしているパイル生地をイメージされると思います。IKEUCHI ORGANICで販売しているタオルも、両面がパイル生地となっているものがほとんどです。

シャーリング加工では、織りあげられたパイル生地を専用の機械で均一に刈り揃えることで、毛足の揃った滑らかな表面に整えていきます。シャーリングした生地は光沢感があり、ベルベットのような肌ざわりで、パイル生地とは違う味わいがあります。

『オーガニック140ライト』は表面がパイル生地、裏面がシャーリング生地となっており、両方の風合いを楽しんでいただくことができます。

このシャーリング加工は、1970年代後半から1980年代にかけて、一世を風靡した技術でした。表面が滑らかなシャーリング生地はジャガード織りと相性がよく、多彩なデザインや柄を表現できます。欧米も含め、シャーリングといえば高級タオルの代名詞だったのです。

ですが、ブームの最中に「パイル生地をカットすれば、シャーリングなんじゃないか」と加工をきっちりと行っていない商品が市場に横行するようになってしまいました。その結果、シャーリングのタオルは吸水性が悪いという認識が一般的になってしまい、90年代には姿が消えていきました。

そもそも、パイルを切ることでふんわりと広がり、水を吸い込む毛細管現象が起こりやすい状態になります。水を引き込む力が増すので、本来、シャーリングのタオルが吸水性が劣ることはないのです。何事もきっちり真面目に作るか否かです。

この絶滅危惧種のようなシャーリング加工を、どこかで復活させられないか。シャーリングにまとわりついている負のイメージを払拭できないか。そうした想いが、ぼくの中にずっとありました。というのも、冒頭でお伝えした、イケウチの歴史を語るうえで欠かせない商品のひとつが、シャーリング加工を用いているからです。

実は、70年代から80年代にかけて、池内タオルの売りとしていた技術は、シャーリング加工でした。

今でも覚えているのが、1975年のぼくの結婚式です。

当時のぼくは東京で働いていたのですが、父から頼まれて、今治で結婚式を挙げることにしました。父は世話好きで、仲人を務めた夫婦が今治に50組はいます。さすがに自分の子供が今治で結婚式をあげないのは具合が悪いというわけです。結婚式は、ぼくら夫婦の友達以外は全て今治のタオル会社の方々で、150社くらいから参加いただいたと思います。

驚いたのが、引き出物にタオルも渡すと父が言い出したことです。タオル屋さんにタオルを渡す。冗談じゃないかと思いました。

その時に渡したのが、シャーリング加工をしたタオルでした。当時、シャーリング加工のマシーンを導入していたのは欧米への輸出を中心にしていた池内タオルぐらいで、「こういうタオルを今治のタオル会社の人たちに見てもらわないといけないんだ」と、自信たっぷりに父は言い放っていました。

先代が未来を感じ、池内タオルの成長を支えてきたシャーリング加工。今回、創業70周年を迎える前に、『オーガニック140ライト』で再び日の目を見ることが出来ました。

この『オーガニック140ライト』の特徴として、速乾性の高さがあげられます。シャーリング加工でパイルをカットしているので、従来の『オーガニック140』より全体として20%程度軽くなっています。その分、乾きが断然早いです。

不完全な乾燥は、タオルへのダメージに繋がり、生乾きや臭い発生の原因になります。毎日洗って、毎日乾いて、毎日使える。そんなタオルをどうやったら作れるかと考えるなかで、シャーリング加工がアイデアとして思い浮かんだのが去年の頭のことです。

IKEUCHI ORGANICの様々なタオルでシャーリング加工を試すなかで、『オーガニック140ライト』が一番しっくりきました。そして、この1年間、試作品を自分自身で毎日使うなかで、「毎日洗って、毎日乾いて、毎日使える」というコンセプトが実現できていると身を以て確信することができ、販売することに決めました。

お客様の中には「品質を第一に考えてきたIKEUCHI ORGANICが、シャーリングのタオルを販売するなんて、どういうこと?」と思われる方もいるかもしれません。でも、そこは安心してください。肌触りもよく、吸水性もあり、乾きもよく、イケウチらしいタオルになっています。

歴史の中で廃れていってしまった技術を、現在のニーズに合わせながら、どう復活させていくか。そして、技術を未来に継承していくか。

ものづくりに長年携わってきたものとして、この視点を大切に、今後も挑戦していきたいと思います。

<編集協力:井手桂司>

池内 計司

記事を書いた人

池内 計司

IKEUCHI ORGANIC 代表。一橋大学商学部を卒業後、松下電器産業(現パナソニック)に入社。1983年、家業である池内タオルに入社し、2代目として代表取締役社長に就任。現在は代表として企画開発部門に従事。